弁護士コラム

渉外離婚と国際裁判管轄

2013.02.20

以前に、渉外離婚のことを書いたことがあります。
その際、国際裁判管轄のことも、少し書きました。
要するに、日本の裁判所で離婚についての裁判をする権限があるのか、という問題です。

もし、日本の裁判所に権限がない(つまり、管轄がない)のに、離婚訴訟を受け付け、離婚を認める判決をした場合には、せっかく離婚を認める判決を得たのにもかかわらず、離婚は認められないということになります。

例えば、A国人夫婦が、A国に住んでいたのだが、夫婦で観光旅行目的で来日した。ところが、夫婦仲が悪くなり、日本の裁判所で離婚の手続をとろうとした、というケースがあったとします。この例は、明らかに机上の空論といえますが、日本の裁判所が離婚についての裁判をすべきではないことは、よくわかると思います。

こういったケースで、もし、日本に裁判管轄があるとすれば、「観光目的」ではなくて「裁判目的」で来日することも出てくるでしょう。

さて、こういったケースで、もし、誤って日本の裁判所で、審理、判決がなされた場合、どうなるでしょうか。
そもそも、日本の裁判所に裁判をする権限がなかったのですから、少なくともA国では、この判決では離婚は認められないことになるでしょう。

結局、裁判が無駄になってしまうので、裁判を始める前に、日本の裁判所に管轄があるか(日本の裁判所に裁判をする権限があるか)をよく検討する必要があります。

上の例のような場合であれば、管轄が日本にあるかどうかは、簡単に判断できますが、微妙なケースもあります。
日本に裁判管轄があるかどうかは、原則として「被告の住所」をもとに決めることになりますが、そもそも「住所」とは何か、ある人の「住所」はどこか、容易には判断できないケースもあります。
つまり、日本に「住所」があるかどうかです。例えば、かつて日本に長期間住んでいたが、最近外国に引っ越した、という場合はどうか、外国に住んでいるが日本に住民登録がなされている場合はどうか、長い間外国に住んでいたが、最近日本に引っ越した場合はどうか、日本にどれくらの期間済んでいたら、住所と認められるのか、などなど、種々の問題がありえます。

日常、離婚訴訟の相談を受けている場合、日本の裁判所に管轄があることを当然の前提としています。
しかし、渉外離婚の場合は、必ず最初に検討しなければならないテーマといえ、我々弁護士も注意しなければならない部分であります。