国際離婚の場合、配偶者の一方が、子供を連れて日本に帰国した場合、原則として、子供を元の住居のあった場所に戻さなければならない、という制度が出来ることは、以前にも述べました。
いわゆるハーグ条約批准の問題です。
しかし、同じような事案は、国際離婚のみならず、国内の離婚でも、通常起こり得ることです。
つまり、妻が、子供を連れて実家に戻ってしまった、そして、離婚にあたっては、子の親権の帰属で争いがある、というケースです。
この場合は、現在の裁判実務では、子供をもとの住居(つまり夫のもとに)に戻す、ということは、非常に困難なケースが多いといえます。つまり、こういうケースでは、離婚時の子の親権者の指定については、母親と指定されることが大半である、ということです。
その理由は、一言で述べると、母子での生活に、特別に問題や支障がない場合は、現状を肯定するのが子供の利益にかなう、ということにあるとされています。
日本では、こういった考え方が強いため、ハーグ条約が制定されてから長期間経過しても批准されなかった、という面もあります。
では、ハーグ条約批准をきっかけに、こういった考え方にも変化が生じるのでしょうか。
もちろん、ハーグ条約の問題は、子を元の居住地に戻す、というだけで、以後、誰が子を養育監護していくのか、といった問題を決定するものではありません。つまり、子を元の居住地に戻した上で、そこの裁判所にて、子の養育監護の内容や方法を決めようとするものです。
従って、日本国内で、妻が子を連れて実家に戻って時間が経過した、この場合、離婚時の親権者の指定は、母親とされる、といった場面とは、理屈の上では異なるものです。
しかし、ハーグ条約の批准、さらには、その後の国際離婚における子の監護に関する事件の解決を通じて、日本国内における事件の解決指針、考え方などに、変化が出てくる可能性もあると思います。
また、立法論ではありますが、離婚後の子の親権のあり方についても、例えば単独親権か共同親権についての議論も起こってくるかもしれません。